要点!交渉術のキンドル独学


交渉術のキンドル独学の学習内容

交渉術は営業マンだけのものではない

交渉とは、何かの目標に向けて、お互いの要求を主張しながら、妥協点に着地させることです。したがって「勝ち負けではない」ということが重要です。勝ち負けをつけるディベートとは異なりますね。

勝ち負けとか「論破」を目指すのではありません。お互いが受容・納得できる結論にどうすれば達することができるのか、を模索することが求められます。

営業マンの仕事(特に専門性の高い提案者営業)は、まさしく交渉です。しかし、交渉をすること自体は、誰にとっても普遍的に必要です。

人は一人では生きられません。他者と歩み寄っていかなければなりません。したがって、生きている限り、仕事以外の家庭や私生活でも、至るところで交渉が求められます。交渉術を学ぶことは、人生そのものを豊かにしてくれるのです。

営業職は、「文系経済学部なんて出たって営業の仕事しかない」とネガに見られがちです。しかし現実を見てみれば、顧客と仕事をとってこれる営業人材こそ、企業活動において最重要の人材です。

実のところ、市場価値が一番高いのは、技術オタクの最先端リサーチャーなどではなく、ビジネスを具体的に創れる交渉術に長けた人材のほうなのです。

複数提案をつくる: 準備が8割

交渉術として最初に心得ておくべきことは「相手のおかれた状況を把握する」ということです。

孫子の有名な教訓「敵を知り己を知れば百戦危うからず」とは、戦だけでなく交渉にも通じるものです(交渉相手は敵ではないです)。

  • 交渉相手がどのような人物・会社・組織であるのか
  • 経歴、注力ごと、興味関心、危機感、競合、チャンス・・・
  • 自分との共通事項

交渉相手の背景をしるところから、すでに交渉は始まってうるのです。

交渉相手を把握・分析したうえで、複数の提案を考案します。提案づくりの作業の所要時間は全体の2割程度かもしれません。しかし、交渉全体の成否の8割を占めます。

たとえば松竹梅と三パターンを用意してみるわけです。

  • 松は、自分の売り込みたい提案。見せ物という感じ。
  • 梅は、相手のニーズに偏って、自分の利益が弱い。相手に罪悪感を抱かせるような感じ。
  • 竹は、互いのニーズの重なりが一番大きい提案。互いの納得感の総和が一番大きい感じ。
  • 松と竹の中間、竹と梅の中間、あるいは梅をさらに「下げる」という調整の余地を決めておく(譲歩範囲の設定)

いうまでもなく、竹パターンの提案に妥結させていくわけです。しかし、これはただのテクニックに過ぎません。

大事なのは「何が松パターンで、何が梅パターンになるのか」という、そもそもの価値判断を誤らないことです。精度よく価値判断して提案をつくるために、交渉相手の分析は綿密におこなわれなければなりません。

さらに資料作成のテクニックを紹介しておきます。松竹梅の三パターンが一覧で比較検討できる表や図で、提案資料をわかりやすくまとめておくのです。そうすれば「持ち帰って検討します」といわれても、どの結論になってくれるか、交渉の場での雰囲気だけで最終結果をほぼ予想できるようになります。

神髄はwin-winを目指すこと

交渉において勝ち負けはないと述べました。敗者がいないということは、いわゆるwin-winという関係が、交渉における着地点です。

すなわち、自分だけが「よかったよかった!」と思うだけでなく、交渉相手にも「よかった~」と思わせるのです。

たとえば、現時点の視点だけでなく、将来時点の視点を盛り込むことは有益です。

例を考えます。設備導入を検討している小さい会社に、自社の新規装置を提案するとしましょう。

まずネックとされるのは価格です。当然、類似製品の相見積もりのもとでの価格の議論になります。自社提案のほうが高価だとしても、価格競争のためだけに安易に値下げをしてしまっては、利益を得られません。そこで、小さい会社という背景を活用して、以下のように交渉を進めます。

「現時点での物品の導入費用としては弊社提案のほうが高価かもしれません。ですが、設置後に立ち上げて運用に入ってから、さまざまなトラブルが起こり得ます。なかなか余計な人員は充てられませんよね。弊社の技術スタッフであれば競合さんに比べて、半分以下の停止時間内で必ず解決できます。このサポートは設備を利用される限り、機械生涯にわたってお約束します」という付帯がつけばどうでしょう?

「うーん、たしかにいくら安くてもあとでトラブルだらけでは、設備も遊ばせてしまうし、修理復旧の労務費も余分にかかりますね・・・うちにはそんな面倒見られるような技術者を雇う余裕もないし・・・」

交渉相手にこう思わせることができるかもしれません。そこで、すかさず次のように話していきます。

「ほんとうのことを言います、実は、弊社の実績の統計としてこの装置を運用すると、だいたい平均で○○回くらいの頻度でトラブルが起こるんですよね。しかも装置自体の性能とか設計というより、お客様の使い方の誤解による場合がほとんどです。実は、私が業界で調べたところ、こういうときに競合さんはお客様のせいにして逃げてしまうんですよ。でも弊社は違います。お客様に寄り添って、自社設計のせいでなくても、トータルで問題解決に取り組ませていただきます」

・・・いかがでしょうか?交渉相手は「できるだけ安く導入したいが、維持費も下げたい」と考えています。ここを狙い撃ちしていたわけです。「導入価格は高いけど、その後の維持費は下げられる。投資の回収は競合よりむしろ早いし、安心して使えそうだ」という印象づけができるはずです。

自分としては「1円でも高く売りたい」という目的があります。交渉相手も「初期費用は高いけど、将来時点では得」と考えることができます。win-winの関係に着地させる交渉の例でした。

「例で出している装置会社は、このあとサポートで労務費がかかって大変なのでは?」と思われた方は鋭いです。もちろん装置の性能設計がポンコツではモグラたたきのように毎日、現地出張サポートになってしまいます(いわゆるテックベンチャーとか)。

装置会社の例のような交渉のためには、そもそも「自社の技術がどれくらい高いのか」を深く知っておく必要があります。あまりに故障が多いようであれば、装置の技術的改良が交渉術よりも先です。

メーカー営業の場合でなくても、自社の提供する製品・サービスの質や保守体制の充実さを十分に把握したうえで交渉材料に選びましょう。

装置会社の例の場合は、装置の信頼性や、AIチャットボットなどの遠隔サポートを技術的に設けることで、自社労務費の削減・利益率向上につながっていきます。先進的な技術の導入(いわゆるDX)にも詳しくなっていると、これからは交渉材料を増やせます。

まさに「敵を知り己を知れば百戦危うからず」ですね!

『影響力の武器』をどう実践するのか

1984年の名著『影響力の武器』は、全世界でこれまで200万部以上も売れているベストセラーです。心理学者が「人の心理を操るための6個のパターン」を解説している本です。大々的には言われませんが、あらゆる会社で「営業職のバイブル」とされています。

『影響力の武器』の原著も、もちろんキンドルで読めます。さらに、キンドル本としては、『影響力の武器』の要約、独自実践などの派生も出ています。

6個のパターンを簡単に紹介します。

  1. 返報性 (施しを受けたら、施しを返してあげたい)
  2. 一貫性 (一度決めたことは、かんたんにはやめない)
  3. 社会的証明 (評判が高いものはいいもの)
  4. 好意 (気に入った人の言うことはきける)
  5. 権威 (あの人が言うのだから間違いないはず)
  6. 希少性 (数が少ないから価値がある)

ひとつひとつの単語でウェブ検索してみても、関連情報が山ほどでてきます。たとえばツイッターのフォロワーの増やし方などです。

具体的には以下のようなものが検索で出ています。

  • 実践ゼロから権威性をこうつければ、フォロワーが増える!
  • 人柄をアピールして好意をもってもらえば、フォロワーが増える!
  • 自分自身の希少性を打ち出して熱心なファンをつくれば、フォロワーが増える!

どれもこれも、結局は1984年の『影響力の武器』でいわれていることでしかありません。新しいことは全く言っていないのです。逆に言えば『影響力が武器』は30年以上経っても、全く色あせていないのです。いま読むべき価値はとても高いといえます。

『影響力の武器』は心理学者が原理について書いた本なので、どちらかといえば理論書です。実用的な例やノウハウを述べた実践書としては、『影響力の武器 実践編』という本があります(別の著者によるもの)。即効性のあるノウハウやテクニックを学ぶには、実践書に目を通す必要があります。

とはいえ、超一流の学者やビジネスマンが書いた「教科書」は、少し心理的なハードルが高いものです。

そこでキンドル本です。「無名の」営業マンたちが体当たりで築いてきたノウハウは、キンドル本でこそ学べます。等身大のリアリティや「理論書のとおりにいかなかった失敗体験」なども綴られています。生きた情報をキンドル本で学び、『影響力の武器』の理論を自らのノウハウに変えていくことができます。

キンドル本は薄いので、すぐにマネしていくことができます。即効性ある交渉術の高め方をキンドル本で学びましょう。

キンドル独学のアウトプットの場は? 

交渉術を発揮する場は、最終的にビジネスの現場とすべきです。

すでに営業マンとして経験を積まれた方は、交渉術に関するキンドル本にパッと目を通してみれば十分でしょう。営業周りでの立ち振る舞いや、作成する提案資料のコツとして、ノウハウをすぐに試してみればいいと思います。

問題は未経験の場合です。いかにリスキリング学習を書籍ベースでしたとしても、いきなり未経験から営業マンになって数字をあげるのは難しいはずです。

そもそも交渉では「論理」と「感情」の両方を相手に訴えないといけません。しかしビジネスの場では、何も筋が通らないなかで泣き落としをしても通用しません。

感情での訴えは後回しにして、まずは「論理」の詰め方を心得る練習をしましょう。「複数提案をつくる準備が8割」と述べました。一番比重の大きい作業の練習をしていくべきです。

営業職であれば先輩や上司に提案書をみせるところですが、一人での練習もできます。というか、一人で練習ができるようにならないと「交渉相手のことがわかる」という状態になりません。

交渉のために、いくつかポートフォリオをつくってみましょう。

  • 各業界・業種で扱う商材のなかから、自分の関心あるものを題材として選ぶ
  • 営業ルートを想定してみる。直接利用者、商社、小売店、代理店などいくつかある。
  • 仮想の交渉相手(大規模・小規模、若い・年配、新しいもの好き・保守的・・、)を考えてみる
  • 自分の状況(目的が認知拡大?売上拡大?顧客数拡大?)を設定してみる
  • 提案を複数通りつくる。項目を表にしてやりだけでいい(資料もなく専門的なことがわからないので、提案書は無理につくらない)
  • 鍵となる数字がどれになりそうなのかを、各ケースで見定める

ポートフォリオが10個とか20個とかになれば、「論理」については自信がつき始めると思います。

転職活動をする場合には、作ったポートフォリオを持ち込むというやり方をすると好印象だと思います。

営業経験があるにせよないにせよ、論理で訴求力を高めるには、自分の扱う製品やサービスの直接知識のほかに、周辺知識が役立ちます。

たとえば、差別化(マーケティング)、技術力(プログラミング)、印象づけ(デザイン)の手法についても心得があると有利です。本研究所で扱っているテーマですので、参考にしてみてください。


まとめ

ここに